言葉と精神の離乳食★わらべうた    by  文・大熊進子/え・鈴木伸太朗

NO.39

どんぶかっかすっかっか

 演奏会が終わるということは私たちにとって年が明けたことに当たります。先週その演奏会が終わり、要するに新年二日目に演奏会に来てくれていた長野の友人が訪ねてきました。長野といえば「笹屋ホテル」とか「上山田温泉」と言う名が頭の中をよぎり、白いご飯とおいしそうなかおりの野沢菜がフと匂います。私って意外に食いしん坊なのかもしれません。というより戦後の食糧難のせいで、草を見ればこれは食べられるのかどうかついつい考えてしまいます。 
 きのこだってそうです。これを食べたら笑い続けるのだろうか、踊りだすのだろうか、それとも死んじゃうの? いつかブダペストの友人の庭に見事なきのこを沢山見つけました。「うわ〜、すごいねえ、これ食べられるのかな〜」と叫んだら隣の垣根越しに隣人が「きのこは全て食べられる」といった。これはめっけもん、今夜はきのこのカツにしようと思って抜きかけた途端もう一声、「但し明日目覚めるかどうか誰も知らぬ」。アア、や〜めたっ、残念! 時は秋、そろそろきのこ全盛期、注意しなければ。
 長野は温泉も沢山ある。若い頃毎シーズン通ったスキー場にも必ず温泉があったけれど、やはりスキーの打ち身のあとは温泉で直すってことだったのかなと思いながら口から出てくる歌は ♪どんぶかっか すっかっか あったまってあがれ かわらのどじょうが こがいをうんで あずきかまめか つづらのこ つづらのこ♪ なのです。この歌は小さい頃覚えた歌でもなければ遊んだ歌でもなく、単に面白半分で覚えた歌ですが、温泉イコールどんぶかっかということが面白い。子ども達に歌って聞かせたら♪ あったまってあがれ♪ という歌詞に気付いた誰かさん、「アッ、お風呂の歌だ!」アッタリ〜 みんな冬になるとお母さんから「よくあったまってね」と言われると言っていた。
 ドンブカッカ、とか スッカッカ とかは日常言ったり聞いたりはしません。でもこうやって歌声に耳を傾け、知っている言葉とその情景を脳味噌をかき回しながら考えている姿を見ると、彼らの成長の過程がわかります。「どじょう、あずき、まめ、つづらもでてきた」といいますから、小さい子どもたちの語彙も、一人ひとりの生活も垣間見ることが出来ます。彼らに何か質問してもまだあまり言葉が得意ではないのできちんと反応することはあまり期待できません。こうして遊びながら私のアンテナを伸ばせば質問しなくてもわかることが多いのです。
 今年の九月の満月は見事でしたウサギも見えました。♪ うさぎ うさぎ なにみてはねる じゅうごやおつこさん みてはねる♪ というのは日本古謡ですが、中々味わいがあります。さくらや今様などもそうで、今様は黒田節の原型です。この3曲はヘミトンペンタトニックといって、半音を含む5音音階です。例えばレミファラシというようにね。どうやらお琴の影響があるようですが、今の小さい子ども達にとっては音程の取り方が大変難しいようです。私は今の子どもと書きましたが、昭和20年代まではそんなことは無かったような気がします。あの頃まではわらべうたを歌う中でしょっちゅう都節と田舎節が交叉していて、それを子どもたちは自然に歌っていました。
 だんだんわらべうたが消えていき、鼻濁音もなくなり、新たにわらべうたを蘇らせようとややわざとらしいやり方でわらべうたが歌われだしたときから、半音が入る歌は幼児には難しいという配慮がされすぎたせいか、今歌われているわらべうたは殆んど田舎節の歌のようで、みやびな子どもの品が損なわれるようで淋しいです。しかし私は ♪うさぎ うさぎ♪ のような歌を幼児に歌わせようとは思いません。誰か大きい人が綺麗に歌って聞かせることが大切だと思っています。わらべうたは教えるものではなく伝えるものですから……。

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