『旅のしおり』

植田昭一著

いま住んでいる世界から抜け出そう。そして別の世界に入ってみよう。そこではいままでにない多くのものを見、聞き、確かめることができるような気がする。それが「旅」の最大の楽しみだと思う……。

A5判293ページ。定価2,000円(税込み)

取扱店/有隣堂厚木店・ブックスウチダヤ厚木ビブレ店

 厚木市緑ケ丘の元教師・植田昭一さん(73)が、教師だったころの研修旅行や私鉄乗りつくしの旅、ヨーロッパ、東南アジア、カナダなどを旅行した時の思い出を記したガイドブック『旅のしおり』を自費出版した。昨年12月、肝臓と腎臓の不調を訴えて緊急入院、肝臓ガンは手術を拒否、腎臓病は腹膜透析の手術を受け、現在、自宅で静養する毎日だが、約700枚におよぶ原稿を手術を受ける前の数か月でまとめ上げ、出版にこぎつけた。
 植田さんは福島県の出身。子どものころから鉄道が好きで、遠くへ出かけても同じ路線は2度乗らないという好奇心の持主で、若いころは東北地方を中心に鉄道を乗り歩いた。
 川崎の中学校教師をしていた昭和53年、宮脇俊三さんが著した『時刻表2万キロ』という、国鉄全線完乗の記録を読み、自分も全線を完乗してみようと、鉄道の旅が始まった。旅先では車窓の風景を楽しみながら、土地の人の訛りにまで耳を傾け、乗り合わせた見知らぬ人とも話を交わした。そして全線を完乗したのは民営化2日前の昭和62年3月29日だった。
 植田さんは8年前、こうした旅の思い出を約600枚の原稿にまとめ、『私の旧国鉄全線完乗記』と題して自費出版した。

旅先での植田さん

 旅はその後も続き、国鉄から私鉄全線の完乗、そして飛行機の旅へと方向転換、平成5年からは海外にも足を運ぶようになり、スイス、イタリア、ポルトガル、スペイン、タイ、マレーシア、カナダ、オランダ、ベルギー、北欧4か国などを旅行して歩いた。
 今回は、教員時代に体験した研修旅行と私鉄乗りつくしの旅、飛行機で行く国内旅行、海外旅行13カ国めぐり、さらに、随想として還暦に思うことやふるさとの思い、私の読書遍歴などを収録した。
 旅行記は行く先々の文化や歴史、人々の暮らしと表情、思いにまで言及しており、読んで楽しめる「旅のガイド」となっている。
 江戸時代に秋田から津軽、蝦夷の松前までを旅した菅江真澄という旅行家がいたが、彼が残した記録は後に柳田国男が感嘆するほど民俗学の資料となった。
 植田さんは、「私の記録は菅江真澄の記録のような、後に資料となるような大それたものではないが、幼少期、青年期、家族をもった成人期、リタイヤ後と、その時々の旅に対する感慨や自然や物の見方、人とのつきあいなど、自分の人生の一端を表すものとなり、それはそのまま自分自身を反映した自分史である」と述べている。
 昨年、体調不良で倒れた時、「70余年の生涯を顧みると、誇れるような業績を残すこともなかったが、非難されるようなこともなく過ごしてきたことに満足している。私にとっての趣味としての旅も人生という旅も、これでいよいよ終わりだな」という感慨を持ちながら、忙しくペンを走らせたという。
 家庭で出来る腹膜透析を始めて4か月。肝臓はそのままだが、しばらくはこのまま病気とつきあっていくことに決めた。植田さんの旅はまだまだ終わらない。