病気と健康

NO9(2002.09.01) 心臓病の話

 東名厚木病院 循環器科医師 

粕谷 健司

 皆さんは心臓病の患者さんというとどんな人物を思い浮かべるでしょうか。古い小説や映画に出てきた色白面長の病弱な母親、ゴルフ中に突然発作を起こし、救急車で病院へ運ばれて緊急治療を受けた恰幅のいい社長さん、バイパス手術を受けたロシアのエリツィン前統領、人工ペースメーカー植え込み手術を受け今も元気なドイツの元首相、和田移植以来久々の日本国内での心臓移植となった大阪大学の拡張型心筋症の患者さん……。
 このように一口に心臓病といっても実は多くの病気があります。(上の例は最近めっきり減ってしまいましたが女性に多いといわれる心臓弁膜症、肥満のある中年男性に多い心筋梗塞の発作(エリツィン前統領はその典型例)、不整脈のためのペースメーカー治療、先端医療である心移植の例です。) 
 したがってその検査も多岐にわたります。症状をお聞きすることから始まり診察、心電図、血液検査、レントゲン、心臓超音波検査などの一般的な検査から、必要があれば入院してさらに詳しい検査を受けていただくこともあります。
 厄介なのは、お一人の患者さんには一つの病気だけ、というのはむしろまれで、多くの方は高血圧症や高コレステロール血症を同時にお持ちです。以前「死の四重奏」といって高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満の4つを同時にお持ちの方の死亡率が非常に高いことが話題になりました。この4者はお互いに合併しやすいのです。
 緊急治療を要する重篤な病気でも同じことが言えます。例えば急性心筋梗塞で病院に運ばれた方でも、単に心臓の血管が詰まってしまっている(心筋梗塞は心臓を養う冠状動脈という血管が詰まって生じます。)だけでなく、場合によっては重症な心不全や命にかかわる危険な不整脈も起こしてきます。このような場合でも迅速に適切な治療ができなければなりません。お一人の患者さんを診察・治療し、なるべく安全にそして後遺症を残さず元気に退院していただくためには、どんな状況にも適切に対応できることが必要で、もしある病気には自信があるが逆にこの病気以外は不十分なことしかできないとしたら、その医師あるいは病院は多くの患者さんを安全にお預かりすることはできないでしょう。                  

 心臓と人の年齢
 心臓の病気を考える上で、年齢、あるいはその人の健康の歴史というものを考えていただくとわかりやすいと思います。現在、癌とともに人の死因の多くの部分を占める脳卒中、心筋梗塞などの血管の病気は、多くはその患者さんがそれまで高血圧や糖尿病、喫煙といった危険因子を放置したために生じてきます。そういった生活習慣病の早期発見と若いうちからの対策が重要です。予防医学や生活習慣病への治療の重要性が叫ばれているのはこのためです。
 また、ひとたび病気が重症化して脳梗塞や心筋梗塞になれば、急性期の集中的治療が必要となります。これは一刻を争う状態でもあります。しかし急性期の治療が終了すれば、退院後の危険因子の治療に真剣に取り組んでいくことがより重要となっていきます。テレビなどでは緊迫感のある華々しい急性期の治療ばかりが目に付きますが、禁煙や高血圧の治療といった、長く忍耐の必要な生活習慣病の治療は、単に病気を予防するという意味だけでなく健康な生活を保ち続けるという意味でも大切なのです。

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