.

カワセミ編集長と愉快な仲間たち

 今日も朝早くから、たくさんの記事を満載したかわら版を配達するため、カワセミ編集長が出発の準備をしていると、子供達も配達用のカバンをかけて飛び出してきました。カワセミ編集長は子供達が自分の仕事を手伝う気になったのだと思い、とても喜んでいるようです。
 さっそくかわら版のくわえ方から教えようと得意げに手本を見せますが、その一方で、横穴の入り口からじっと子供達を見つめるお母さんは、なぜか心配そうな表情をしています。かわら版の配達はとても大変な仕事なので、この子達にはまだ早いと反対しているようです。
 しかし、そんなカワセミ編集長やお母さんの気持ちとはうらはらに、子供達は、かわら版のはしをくわえてブラブラさせたり頭にかぶってみたり、カバンを首からたらしたりして遊んでいます。どうやら子供達は、カワセミ編集長の仕事を手伝いに来たのではなく、ただ同じ格好をして遊びたかっただけのようです。
 こうしてこの日も、カワセミ編集長は飛び立って行きました。子供達はいつの日か、かわら版の配達を覚える日が来るのでしょうか?そしてカワセミ編集長は一体どんな相手にかわら版を配達しているのでしょうか?

メジロさん

 今日のカワセミ編集長は林の中を飛んでいます。しばらくしてカワセミ編集長を呼ぶようにさえずりが聞こえてきました。そのさえずりの主が今回のかわら版の配達相手“メジロさん”です。
 カワセミ編集長はさっそくメジロさんの脇に止まり、くちばしでかわら版を渡します。受け取るメジロさんはとても喜んでいます。
 鳥達は、種類ごとに住む場所を決めていて、他の鳥の棲家に入る事はなかなか出来ません。そのため、同じ鳥であっても自分以外の種類の鳥と会ったり、お話したりする事はめったにありません。そんな中で、カワセミ編集長のかわら版は、違う鳥同士が壁を越えてコミュニケーションを取ることが出来る大切な手段なのです。
 メジロさんは、普段はお話する事が出来ない、自分と違う鳥達の気持ちが写されたこのかわら版を見るのが大好きなのです。そんなメジロさんのうれしそうな姿を見て、カワセミ編集長もかわら版を作っていて良かったと大きな喜びを感じるのです。
 ただ、メジロさんがお礼に“花の蜜”をごちそうするというのだけは困ってしまいました。なぜなら、カワセミ編集長の好物は“川魚”で、花の蜜はあまり好きではないからです。

キセキレイさん

 カワセミ編集長には、メスの幼なじみがいます。小さな頃からこの水辺でよく一緒に遊んでいた“キセキレイさん”です。
今ではお互い家庭を持ち、子供にも恵まれていますが、おとなになった今でもふたりの友達関係は続いています。
 しかし、今でこそこうして平気で会って話が出来ますが、小さかった当時は違う種類の鳥同士が遊ぶなんていけない事だと思われていました。カワセミ編集長もよく親鳥に「あの子と遊ぶな」と叱られたものです。しかし、それでもふたりは会って遊びました。こっそり巣を抜け出して隠れて遊んだ事さえありました。
 カワセミ編集長にとって、この頃の記憶が「かわら版作り」のきっかけになっているのかも知れません。違う種類の鳥同士でも、こんなにわかりあえるという自らの体験をもとに、コミュニケーション不足によってお互いを誤解しあう事を少しでも解消するため、地道にかわら版を作り、配達し続けてきたのです。
 今では、キセキレイさんも大切な配達相手のひとりですが、カワセミ編集長にはずっとキセキレイさんに秘密にし続けている事があります。それは……実はセキレイさんが初恋の相手だった……という事です。

オオルリさん

 カワセミ編集長にとって、かわら版の配達は大きな楽しみのひとつです。自分のかわら版を読んでくれる小鳥達に直接会って反応を見たり、いろいろな話を聞いたり出来るからです。しかし、時には配達先で思わぬ目に会う事もあります。今回の配達はまさにそうでした。
 今回の配達相手は“オオルリさん”です。全身青い羽に覆われている方がオスで、茶色っぽい方がメスです。しかし、オスのオオルリさんは何だか落ち着かない様子です。カワセミ編集長はそんなふたりの近くに止まり、さっそくかわら版を渡そうとしましたが、オスのオオルリさんはメスの前に立ちはだかって突然大きな声を出し、カワセミ編集長を威嚇し始めました!
 カワセミ編集長は思わずたじろぎ、困った表情を浮かべていますが、どうやらオオルリさんは「お前なんかちっとも青くないぞ!自分の方がきれいな青だぞ!」と叫んでいるようです。カワセミ編集長はやっと事態が飲み込めました。
 オオルリさんのオスは、今まさにメスにプロポーズしている最中だったのです。自分の青い羽でメスにアプローチするのに、同じ青い羽のカワセミ編集長が邪魔だったのでしょう。
 こんな様子では、とてもかわら版を受け取ってもらえそうにありません。今回はタイミングが悪かったようです。もう少し落ち着いた頃を見計らって、また改めて配達に来ようと思い、カワセミ編集長はふたりのもとを飛び立ちました。 

コマドリさん

 かわら版の配達は見た目以上に大変です。重いカバンをかけて時にはかなりの距離を飛びます。今回のカワセミ編集長は、住み慣れた水辺を遠く離れ、標高1,000メートル以上の深い森までやって来ました。今回の配達相手“コマドリさん”に会うためです。
 コマドリさんは普段地上にいる事が多く、やぶなどに隠れてなかなか姿を見る事が出来ません。そこでカワセミ編集長は軽く「チッチッ」と合図を送ります。すると草の影からひょっこりと2羽のコマドリさん夫婦が現れました。
 さっそくカワセミ編集長は夫婦のもとに降りますが、すぐ近くには止まらず、一旦距離を置きます。これは、コマドリさん達のなわばりに入る前に一度確認を取る、カワセミ編集長流のマナーです。コマドリさん達も、そんなカワセミ編集長の心遣いや、ロングフライトの苦労を知っているので、歓迎ムードでOKを出してくれます。
 そして、かわら版を渡し終えたカワセミ編集長は、休憩もかねてコマドリさん夫婦とお話します。コマドリさん夫婦は山での暮らしを、カワセミ編集長は水辺での暮らしを話します。お互い、自分の知らない世界の話に興味津々です。この会話こそ、カワセミ編集長にとって“宝”とも言える瞬間で、この喜びがあるからこそ、かわら版作りや配達の苦労も乗り越えられるのです。

モズさん

 鳥は、種類によってさまざまな習性や特徴を持っています。カワセミ編集長は、今までかわら版の配達で数多くの鳥達と出会ってきました。そして今では、自分と他の鳥との違いを見つける事に楽しみをおぼえるまでになりました。しかし、中にはいまだにカワセミ編集長が理解に苦しむ習性を持つ鳥もいます。
 今回の配達相手“モズさん”は、かわら版発行当初からのお得意さまで、カワセミ編集長との付き合いも長いのですが、何度配達に行っても、かわら版が枝に吊るされてボロボロになっているのです。これにはカワセミ編集長もがっかりです。その上モズさんからは、かわら版の内容についてたびたび厳しい指摘を受けたりするので、モズさんへの配達はとても気が重いのです。
 ただ、その指摘はたいてい的を得ていて、それだけモズさんがかわら版に目を通してくれていると言う事にもなるので、この吊るされたかわら版も、捕らえたエサを枝に刺して保存する“モズのはやにえ”と同じような意味で、モズさんなりにかわら版を大切に扱ってくれているのかも知れません。
 とは言うものの、苦労して作り上げたかわら版の無残な姿は、これからもカワセミ編集長を悩ませ続けそうです。

当ホームページに使用されている画像の無断使用、転載を禁じます。
Copyright(C)Tamotsu Watanabe 2001.All Rights Reserved.

back
.

next