インタビューに答える山口巌雄厚木市長(厚木市役所市長室で)

2005.1.1新春インタビュー

 山口巖雄厚木市長に聞く

市制50周年を迎えて―厚木市はどう変わるか?

 市制50周年について ■厚木市は2月1日、市制50周年を迎えます。市は50の記念事業を用意してこの1年間市民とともに50周年を祝いますが、記念事業をどのように位置づけておられますか。また目玉となる事業をお聞かせください。
 山口市長 市制50周年記念事業は、市民の皆様や市民団体からお寄せいただきましたご提案を基に、記念事業検討懇話会を始めとした3つの市民組織や庁内組織で検討し、取りまとめていただいたもので、市民と行政の協働による、新たなまちづくりの契機としてとらえております。記念事業の実施により、厚木の持つ魅力を改めて全国に発信すると同時に、市民の皆さんに厚木をもっと深く知り、市政をより身近に感じてもらい、市に対する愛着心を一層高めるきっかけとなっていただければ幸いです。
 市制施行日に当たる2月1日を記念事業のスタートとして、午前10時から市役所正面玄関において「電子市役所宣言」のセレモニー、また、同日午後5時30分から本厚木駅北口広場にて、50周年を記念して設置した「ITのまちモニュメント時計」の除幕式を、そして午後6時30分からは、町村合併により厚木市が誕生したことをイメージして、各地区から「ともし灯」を手にした市民が、イルミネーションに彩られた厚木公園(通称はとぽっぽ公園)に集まる「人と光のページェント」を開催いたします。
 2月5日の土曜には、「市制50周年記念式典」として、市の発展にご尽力いただいた方の表彰や韓国軍浦市並びに北海道網走市との友好都市締結調印式などを文化会館で挙行します。翌週の2月13日の日曜には、「NHKのど自慢」が文化会館で行われます。ほかにも数々の事業を開催いたしますが、こうした事業を通して、市制50周年を多くの市民の皆さんとお祝いするとともに、いつまでも心に残る事業となるよう準備を進めておりますので、どうぞご期待いただきたいと思います。
 ■網走市、軍浦市との交流では何を期待されますか。
 山口市長 韓国の軍浦市につきましては、日本から一番近い国であり、空港から一時間余りに位置し、交通の利便性にも恵まれ、地理的条件からも気軽に交流ができる環境でありますので、青少年のスポーツ交流や高齢者のゲートボール交流を始め、芸術、文化、教育などの市民相互の交流が深まり、国際親善・国際平和につながるものと期待しております。
 北海道の網走市は、オホーツク海に面しており、サケやエビなど「海の幸」が豊富でございますので、厚木市で生産される四季折々の「陸の幸」との物産交流が期待され、居ながらにして北海道名産の味と香りを直接味わうことができるものと存じます。また、網走市は、森と湖の美しい自然に囲まれた観光地や教育文化施設も充実しておりますので、観光交流や教育文化面の交流も期待されます。
 企業等の誘致に関する条例 ■厚木市は今年の1月から5年間の時限立法ともいえる「企業等の誘致に関する条例」を施行します。条例施行のねらいは何でしょうか。この5年間に条例にもとづく民間企業の新たな投資や進出をどの程度に見積もっておられますか。
 山口市長 厚木市は、首都圏における業務機能を始めとする諸機能を担う業務核都市に指定されており、業務核都市としての機能の強化を図る必要があります。また、地方分権が進む中、ますます激しくなる都市間競争に対応していかなければなりません。このような
中で、市民一人一人の皆様にゆとりと豊かさを実感していただき、住んで良かったと思っていただけるまちを実現するためには、安定した財政基盤の確立と計画的なインフラ整備の実行などが重要となります。
 こうしたことから、市制50周年を契機として都市の再構築に向けて、地域経済の活性化を図るとともに、市民の皆様の雇用機会の拡大による職住近接と生活環境の向上を図ることを目的として、市外からの新たな企業の誘致や市内の既存企業の事業拡大に対して、固定資産税等の負担軽減や雇用奨励金の交付により支援を行っていくため、条例を制定したものでございます。  
 製造拠点の国内回帰や新製品の開発など、企業の設備投資に向けた動きが活発であること、及び条例の適用期間を5年間としたことから、期限内での市内への企業の新たな設備投資や進出を積極的に促進し、さらなる産業の集積を図っていくため、奨励措置の内容や市の産業拠点としての魅力について、様々な方法と機会をとらえて積極的なPRに努めてまいりたいと考えております。
 市の財政構造について ■少子高齢化を迎え、厚木市の今後10年ほどの将来を見通した場合、財政面で金額的に何が一番問題になると思われますか。また、市の財政構造をどのように分析しておられますか。
 山口市長 日本経済は企業部門を中心に回復傾向にあるものの、先行き懸念材料も見られるところであり、今後、市の財政も厳しい状況が続くものと認識しておりますが、現状といたしましては、「東洋経済・都市データパック2004年版」によりますと、住みよさランキング総合評価で厚木市は全国696都市中22位で、前年147位から大幅にランキングがアップしております。また、「週間朝日(昨年9月10日号)の住んで得する街ランキング」では、上下水道負担と住民1人当たりの行政コストが共に9番目に安いとランキングされるなど、他市に比べ住みよさでは、かなり勝っている位置付けがされております。このような状況の中で、将来においては、義務的経費のうち、公債費(借入金の返済金)は計画的な地方債(借入金)の活用により、その現在高は減少傾向となりますが、少子高齢化が進む中で、その対策経費としての扶助費は増加傾向となり、退職金については、平成19年度をピークとしてとらえております。また、国民健康保険、介護保険、老人保健医療などの社会保障関係経費も増大するものと考えております。
 さらに、交通渋滞対策としての環状系道路整備、環境施設建設、小学校給食施設整備などの大規模施設整備も着実に進めていかなければならないところであり、限られた財源を、どのようにバランス良く配分していくかが大きな課題と考えております。このようなことから、平成17年度当初予算につきましては、各部に枠配分をして編成する総枠配分方式を取り入れ、経常的経費の削減や抑制を図り、優先順位に基づく事業選択による重点配分を目指して、現在、編成作業を進めているところでございます。
 財政構造につきましては、県内の類似団体と比較いたしますと、歳入面では法人市民税収入が多いことから、比較的大きな予算規模を確保することができる状況にあります。また、歳出面では、経常的経費が増加する中で、将来的なまちづくり整備費としての投資的経費である普通建設事業費が多く確保できていることが特徴です。財政力を示す財政力指数(自主財源比率は全国6位)や財政運営の硬直性を示す借入金返済などは良好な数値を示しているところでありますが、今後において、経常的経費の増加により投資的経費が圧迫されることは否めないところでもあり、社会経済情勢や行政需要を的確に把握し、こまめに計画を見直しながら市民サービスの低下を招くことのないよう財政運営を図ることが重要なことと考えております。
 都市再生について ■昨年4月、厚木市は本厚木駅周辺の20ヘクタールが都市再生特別措置法にもとづく「都市再生緊急整備地域」に指定されました。また6月には、エコツーリズムによる自然学習拠点整備構想が「地域再生計画」の認定を受け、市民の注目を集めています。実現化、具現化に向けての取り組みをお聞かせください。
 山口市長 都市再生特別措置法には、中心市街地の活性化に向けた再開発事業にとって、都市計画法の規制緩和など、大きなメリットが規定されています。この法律に基づく都市再生緊急整備地域の指定が、全国の市街地でも約64平方キロメートルと限られた地域のみの指定であるにもかかわらず、小田急線沿線の駅前で「本厚木駅前」のみが指定されたことは、、中心市街地の活性化という共通の課題を解決する上で、他市に比べて大きなアドバンテージ(有利な立場)を得たものと考えております。今回指定されました約20haの都市再生緊急整備地域の中で、バスセンター周辺地区につきましては、公共・公益施設の整備再編を軸に、平成17年度は具体的施設の検討を進めてまいりたい。また、本厚木駅南口につきましては、地権者の皆様と共同で進める「再開発事業」実施に向けた協議を進めているところであります。
 「地域再生計画」につきましては、豊かな自然環境、地域の産業、文化、歴史などの様々な資源を保全、活用し、雇用の創出と地域経済の活性化を図りながら、環境保護と地域経済発展の両立を目指すものであり、市民を始め多くの方々が、自然の中での体験を通じ、命の大切さを継承する使命を感じ、生きがいのあるライフサイクルの実現に向けた再生計画でございますので、高齢福祉、教育、子育てなどにも活用のできる計画としていきたいと存じます。今後は各種団体等、関係者の方々のご理解とご協力をいただきながら、体験型エコツーリズムの試行的実施の中で得られる子供たちの意見等を取り入れながら、バリアフリーによる「自然学習拠点整備による再生計画」の具体的な計画づくりを進めてまいります。
 安心・安全のまちづくりについて ■厚木市は昨年、防犯モデル地区の指定や防犯パトロール隊の新設、警察、行政、市民との連携による環境浄化作戦を推進してきました。その成果をどのように受け止めておられますか。   
 山口市長 「安心・安全」は、経済・社会発展の基盤となってきたものでありますが、最近は、連帯感の希薄化や規範意識・社会秩序の低下、長引く不況など社会を取り巻く状況の変化に伴い、市民生活の安全について改めて考えさせられるような事件・事故が各地で発生しており、「安心・安全」の価値を改めて考えさせられます。このような中、市内では自治会やPTA、ボランティア、市民の皆様が連携を図り、人と人との信頼感や絆を復活させ、犯罪の抑止や防止に様々な取組みをされております。
 市では、平成14年度から治安を重点課題と位置付け、「3ない運動(犯罪を起こさせない、許さない、見逃さない)」を積極的に進め、数々の対策を市民の皆様や警察と一体となって取り組んでまいりました。その結果、犯罪認知件数は平成13年をピークに年々減少しております。しかしながら、市民の皆様の身の回りでは、現在も様々な犯罪が発生しておりますので、今後も犯罪の発生しにくい環境づくりに取り組んでまいります。なお、犯罪は、皆さんの「心の扉が開きっぱなし」になることから発生します。家の鍵や自転車の鍵の掛け忘れなどには十分お気を付けいただきたいと存じます。犯罪は、きれいな場所や街では発生しにくいと言われております。市民の皆様も、一人一人が基本的なルールを守っていただき、ポイ捨てや放置自転車、落書きなどがないきれいなまちを目指して、安心して安全に暮らせるまちづくりの推進にご協力をお願いいたします。
 少子化対策について ■群馬県太田市は今年1月1日から、男性職員に対して子どもが生後1年に達するまでの間、連続1週間の育児休暇を計6回取るよう義務づけています。子育ては女性の仕事という固定観念がありますが、男性も女性と同じく育児の現場に入ることが女性が安心して子を産み育てるという少子化対策につながります。厚木市は民間に先駆けて男性職員の育児休暇を義務づけるお考えはありませんか。
 山口市長 育児休暇は、出産という身体的負担の軽減にとどまらず、親子関係の構築と育児の安定のために必要な制度であり、その権利を保障していく必要があると思います。しかし、育児については、それぞれの家庭や個人の考え方を優先するとともに、生活スタイルに配慮していく必要があると思いますので、単純に男性に義務化することには疑問を感じていますが、夫婦相互の協力の中で育児への男性の参画は必要であると考えております。
 市が現在、策定を進めております次世代育成推進計画の特定事業主行動計画において、男性の取得率に関する具体的な数値目標を掲げるとともに、より一層取得しやすく、充実した制度の実現に取り組んでまいりたいと考えております。
 自治基本条例について ■日本の自治体がいま標準装備すべき政策手法は、(1)情報公開、(2)行政手続き、(3)政策評価、(4)IT化、(5)自治基本条例、(6)バランスシートの6つといわれています。厚木市はすでに5つの政策手法をクリアされておりますが、自治基本条例についてはいまだ装備がなされておりません(まちづくり条例はあります)。自治体の憲法ともいえる「自治基本条例」を制定するお考えはありませんか。
 山口市長 一昨年10月に施行した「まちづくり条例」につきましては、まちづくりの基本理念を明らかにし、市民が主役のまちづくりやだれもが「住みたい」、「住み続けたい」と心から感じていただけるまちづくりの推進を目的とし、この目的の下、「市民主体のまちづくり」以下8つのまちづくりを目指す、本市まちづくりの憲法に位置付けられるものであります。他の自治体が制定している「自治基本条例」と呼ばれるものにつきましては、策定する自治体によってその内容が異なり、必ずしも一定した条例とはなっておりませんが、本市におきましては、市民の皆様と共に作り上げた現行の「まちづくり条例」の理念を普及、推進してまいりたいと考えております。
 災害対策について ■地震などの大規模災害は、崩落や火災などの危険を回避できたとしても、「エコノミークラス症候群」など、その後の避難生活で被災者の健康管理やメンタルな部分について予想もできないリスクを背負うことが分かり始めました。こうしたリスクを避けるための工夫や対応策にはどのように取り組んでいかれますか。
 山口市長 私が市長に就任をいたしました平成7年に阪神・淡路大震災が発生し、その教訓を生かすため「防災対策の推進」を本市の三大施策に位置付け、ハード、ソフト両面にわたり、積極的に進めてまいりました。新潟県中越地震では、車中での避難生活による「エコノミークラス症候群」の発症という、避難生活の健康管理面では予想もしなかった新たな課題がクローズアップされております。不眠、憂鬱、意欲低下など精神的な症状も目立ち、過去に例のない余震が多発する中、その度にパニックに陥って吐いてしまう人や足が震えたり、冷や汗が出たりする急性ストレス症候群(ASD)などの症状を示す人なども多く出ており、精神的なダメージは長引く傾向にあると思われます。こうしたことから、被災者に対しては医療機関等の協力をいただき、充分なケアを行っていく必要があるものと改めて痛感しております。
 地震災害の発災直後における避難場所は、体育館になると思われますが、被災者の健康管理面やプライバシーを守るために、避難所の開設に当たっては、工夫と対策をしなければなりません。市では防寒のための防災シートや毛布、間仕切りの備蓄などにより、避難生活を少しでも快適に過ごせるよう対策を講じております。また、合計48箇所の指定避難場所のうち13箇所に医療救護所を配置し、当面、医療関係機関等医師の皆様に診療に当たっていただけるよう対策を立てております。お年寄りや体の弱い人達のため、安心して生活できる場所に早く移れるよう、社会福祉施設と災害時の協定も締結しております。ぼうさいの丘公園は2万人が避難可能で、ペットの避難場所も用意しておりますので、避難者の心も安らぐことと思います。なお、現在進めております各小学校の給食調理場の活用により、他市に類のない対応もできると思います。今後は、ハード面の整備がおおむね完了したことから、ソフト面として心のケアを重点に、更にきめ細かな工夫や対応策を進めてまいりたい。
 今後のまちづくりについて ■地方分権が進むと自動的に地方自治が成熟するわけではありません。しかし分権は住民自治を拡大するチャンスでもあります。果たして地方自治は変われるか、それは自治体の力量次第でもあり、住民の意思次第でもあります。市制50周年を機に市長として今後、厚木のまちをどのような方向に導いていかれますか。  
 山口市長 地方分権が進む中で、三位一体改革の実行に伴いまして、都市間競争とともに個性的なまちづくりの推進がますます求められることになります。私は、市制50周年を機に、これからの50年を見据えながら、市民の皆様にゆとりと豊かさを実感していただけるような都市の再構築を図るため、新たなスタートを切りたいと考えております。そして、市民が主役を基本としながら、22万を超える市民の皆様の意気込みと顔が見えるようなまちづくりを、市民との協働を理念として進めてまいりたいと存じます。そのためには、あつぎハートプランで将来像として掲げる「私もつくる心輝く躍動のまちあつぎ」の具現化に向け、市民の皆様に住んで良かったと実感していただけるまちにするための方策を一歩一歩着実に実行していく必要があると考えております。
 ■本日はありがとうございました。