病気と健康

NO8(2002.08.01) 前立腺肥大症b診断と治療

 東名厚木病院 泌尿器科医師  

宇都宮 拓治

 診断
 
検尿 前立腺肥大症により、残尿が増え尿路感染症を合併することがる。また、その他の泌尿器科疾患が潜在していないか調べる。
 
直腸診 前立腺の一部が直腸壁と接触しているため、肛門より指を挿入する事により前立腺を触診することができる。前立腺肥大の程度や前立腺癌の疑いなどを鑑別する。
 採血 前立腺癌との鑑別のために、前立腺癌の腫瘍マーカー(それぞれの癌で特異的に上昇する物質。但し全ての症例で上昇するわけでない)PSAを調べる。また前立腺肥大により慢性的に尿の通過障害があった場合、腎機能障害を合併することもあり、この検査も併せて行う。
 
超音波検査 親指程度の超音波の機械を肛門より挿入し、前立腺の体積(大きさ)形状を観察する。また前立腺癌の鑑別等も併せて行う。腹部からの超音波検査は、残尿および腎臓の状態を観察する。
 
尿流測定 排尿の勢いを他覚的に調べるために行う。これは、測定器の付いたトイレで排尿するだけの簡単な検査。治療前後に行うことにより、治療効果の判定にも有用な検査である。また膀胱機能障害が疑われる場合は、膀胱内圧検査を行う。
 
その他 尿路の造影検査や内視鏡検査を行う場合があるが、侵襲的な検査のため必要に応じて行う。
 
治療 治療方針は、上記検査や患者さんのQOLを考え合わせ決定する。
 
1.薬物療法  
 
α1遮断薬 膀胱頚部、前立腺部の平滑筋の緊張を緩和し排尿状態を改善する薬剤で、前立腺自体を小さくする薬ではない。最近では、第二世代のα1遮断薬を使用することが多くなり、以前みられていた、めまいや立ちくらみなどの副作用は少なくなった。
 
抗アンドロゲン製剤 前立腺の縮小効果があり、前立腺肥大による尿道の機械的圧迫を解除し排尿状態を改善する薬剤。しかしこの薬剤は、効果が現れるまで半年〜1年を要すると言われている。副作用として性欲低下、勃起障害、肝機能障害などがある。
 
2.外科的治療法
 
被膜下前立腺摘出術(開腹手術)大きな前立腺肥大症および膀胱結石合併例などが適応となる。麻酔下に下腹部切開を加え、前立腺を被膜下に摘出する手術。しかし、現在では内視鏡手術に取って変わりつつある。
 
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)内視鏡を使用した手術で、腹部切開などは行わない。現在、前立腺肥大症の手術の主流となっている。麻酔下に尿道より切除鏡を挿入し、前立腺を細かく削り取る手術。切除面からの出血に対して、ピンポイントで電気メスを当て止血するが、前立腺が大きくなるほどまた、手術時間が長くなるほど出血量は多くなる。入院期間は施設により若干異なるが、10〜14日間が一般的で、術後の痛みは、ほとんどない。   
 
レーザー療法 内視鏡を使用し前立腺にレーザーを照射することにより、前立腺組織の凝固、壊死を起こさせる。最終的には、これらの組織は脱落あるいは吸収され、前立腺による尿道閉塞部が解除される。この手技の利点は、出血がほとんどなく短期入院(3〜4日間)で済む事。但し手術効果は即座には現れず、術後3ヶ月程度は様子を見る必要がある。また大きな前立腺肥大症には不向きで、手術効果の持続期間はTUR-Pと比べ短い。
 
温熱療法 現在、色々な種類の前立腺温熱療法がある。その一つとして、経尿道的前立腺ニードルアブレーション法(TUNA)がある。これは内視鏡を使って前立腺内に針を挿入しラジオ波照射を行い前立腺組織を焼いてしまう方法。レーザー療法と同じく、手術効果はすぐには現れないが、短期入院で済む。現在のところ、大きな前立腺肥大症には不向きと考えられている。
 
尿道ステント法 前立腺によって圧迫されていた尿道部に、尿道ステントを留置することにより閉塞を解除する方法。ステントの材質や形状など近年開発が進み、術後成績は良くなりつつある。しかしながら、TUR-Pと比べ術後効果は短い。局所麻酔でもステント留置可能なことより、その他の麻酔術を受けることが危険な患者さんや(高度の心肺系疾患)、尿閉にて尿道カテーテルを留置しているが、繰り返し自己抜去するような患者さんに適応がある。
 
おわりに
 今回は、前立腺肥大症のごく一般的なことについて触れてみました。夜間何度もお小水に行くことや、お小水の出が悪いのは歳だからしょうがないと思わないで下さい。これらを放置することによって、尿路感染症、膀胱結石になることもあり、さらにひどくなると腎機能障害を引き起こしたりすることもあります。一度、近所の泌尿器科医にご相談してみてください。

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