言葉と精神の離乳食★わらべうた

大熊進子

NO.8

 つんつんつばな

つばな(茅花)
 つんつんつばな 一本抜いちゃクイクイクイ 二本抜いちゃクイクイクイ 三本抜いちゃクイクイクイ 三本目にはキツネにダマサレタ!
 最近はレンゲ畑も少なくなったし、つばな(茅花)もあまり見なくなりました。
 私は昭和20年の冬、長野県へ疎開しました。田舎の無い、父親も居ない私たちは田舎へ縁故疎開も出来ず、母が勤めていた学校の子供たちの学童疎開に便乗したのです。引率教諭として瘤付という意味です。
 長野県埴科郡ごかむら千本柳ちょうえいじというのがその場所でした。始めは長野の笹やホテルという所だったけど、次に戸倉温泉というところに変わって3回目にお寺さんへ変わりました。
 
 変わった当初は裏の笹薮の音が谷川の音に聞こえたり、お墓に緑の小さい蛙がいっぱいいてとても恐ろしかったことを覚えています。国民学校へ入学し、1日行っては10日休みという具合で、学校へはほとんど行きませんでした。いつもいつもお腹がすいていました。
 東京もんはあまり受け入れられなかったみたいです。でも一人、いつも私を連れまわしてくれる子がいました。サキちゃんだったかチャコちゃんだったかもう名前も覚えていないので申し訳ないのですが、彼女から小麦でガムを作ることや、農家の庭先に干してある梅干を攫ってくることを教えてもらいました。桑の実の美味しいことも、つばなを食べることも教わりました。
 つばなは厚木のローゼンの前に生えています。東京農大の田んぼがある、才戸橋を渡って峠へかかる手前にもあります。三田を通る中津川と並行して走る道にも見られます。穂が出て銀色に波打つとそれと分かりますが、食べる穂はあんなに成長したらもうダメですね。出る前でないと食べられません。
 柔らかいうす緑の衣に包まれた銀色の穂の赤ちゃんは、ビロードのような感触でしっとりとしていました。今はもう出てからのつばなを子供たちに見せるだけです。でも「食べられる」というとみんな試食して「ウマイネエ」「ちょっと噛み切れない」「なんかブツブツしたものがある」などといいながらも楽しそうです。
 そりゃ噛み切れないはずです。もうトウが立っておまけに種も出来てるからブツブツするはず。アア、緑色のいいにおいのする美味しいつばなを子供たちと抜きながら味わいたいなと毎年思います。ちなみにつばなとはちがやのことです。
 いつか写真の上手な人と話をしていてフッとこの歌を歌ったら、「そうそう、懐かしいわ、小さい頃うたいましたよ」といわれました。「遊びがありますが?」と伺うと「いいえ、歌いながらつばなを引っこ抜いて空中へ飛ばせてました。いっぱい生えてたからねえ」と目を細めていらっしゃいました。
 そうなんです、わらべうたというとすぐに皆さんは(これって誰と誰を対象にしているのかなあ? 便利な言葉ですが、私にわらべうたを教えてくれといってくるのは保育士が多いからきっと彼らが主でしょう)「どうやって遊ぶのですか?」と聞かれますが、歌いながら引っこ抜くとより楽しいから別に遊びは無いのでしょう。
 からす からす かんざぶろう お前のうちがもえるぞ はやくいって みずかけろ 
 と歌う歌も夕暮れ時、子供たちはカラスにむかって歌っただけ。
 ほたるこい やまみちこい あんどのひかりを ちょいとみてこい 
 と歌いながら蛍を捕まえに行っただけです。蛍といえば日本中に限りなくたくさん蛍を歌った歌があります。
 「蛍 ほたる こいこいこい 鰊の油の露くれる」
 と歌っているのがあって、岩手出身の方に偶然言ったところ、「昔は軒下に鰊がつるしてあって、おやつに数の子を食べてたって主人が言ってました」とのことです。
 贅沢なおやつ! しかも滴る露を蛍がたべてたなんて夢見たいな話ですね。

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