言葉と精神の離乳食★わらべうた

大熊進子

NO.17

   野菜の数え唄

さといもの葉
 このところ大分秋めいてきました。五感を働かせながら町を歩くとそこここに秋が忍び寄っているのを感じます。
 いつかラジオで聞いたことですが、京都の或る地方ではお月見にサトイモを供える。これは多くの地方でも行われているようですが、特に記憶に残っているのはそこでは茹でたサトイモに竹串で穴を通し、その穴からお月様を見るということでした。満月がうまく見えれば将来素敵な旦那様にめぐりあえるとか、幼児たちにそういったところ「じゃ、男の子はどうなるの?」。……どうなるんでしょうね、男の子は見ないのかしら?
 昔はやはり芋といえばサトイモだったのでしょうね、何しろ稲より歴史が古いといいますから……。そういえば野菜の数え歌でも始めは芋から始まるものが多いようです。
  芋 芋人参 芋人参山椒 芋人参山椒紫蘇 芋人参山椒紫蘇牛蒡 芋人参山椒紫蘇牛蒡麦 芋人参山椒紫蘇牛蒡麦茄子 芋人参山椒紫蘇牛蒡麦茄子蓮 芋人参山椒紫蘇牛蒡麦茄子蓮栗 芋人参山椒紫蘇牛蒡麦茄子蓮栗唐茄子「一ちょで 二ちょで 三ちょで ホイ」というのがあります。これは栃木県の、手鞠歌として記録されています。
 これを見て、また他の数え歌に思いを馳せて解かることは、日本語の数の数え方の豊かさです。いちにいさんしごおろくしちはちくうじゅう、ヒトツフタツミッツヨッツイツツムッツナナツヤッツココノツトオ、ひいふうみいよおいつむうななやあこのとお……。この頭を縦横に駆使して面白く数え歌を作っているのです。また、ひとよひとよに……、ふじさんろくにおおむなく、などむずかしいルートなどの記憶も助けています。ひいふうみいよおという数え方は日本の文化ですから私は幼児期には必修と考えていますが、残念なことにほとんどの幼児はイチニイサンシイという無味乾燥な数え方しかしていません。あと50年もしたら日本の文化の一部は消えるかもしれない。たかが数え方、でもされど数え方なんですが…ね。
 さて前記の歌に戻って、もしこれを日本語を知らない外国の人が覚えようと思ったら大変です。始めの一小節目は二拍子、次の一小節は三拍子、次には2拍子が2小節来てまた3拍子、次に2拍子が1回、というように拍子の表記が変わります。私達日本人は楽譜なんぞに頼らず、言葉が増えていく面白さで覚えきってしまえるのです。子供たちが成長しクラシック音楽に親しみ始めて、外国の変拍子の多い曲に戸惑うことが良くありますが、そのとき私は小さいとき歌ったこういう歌を楽譜で見せます。
 「どの国の音楽もわらべうたにはこういう形が多い。きっとこの作曲家も小さいときの体験、そして母国語からこの音楽は出てきたに違いない」というとわが身に置き換えて理解しやすくなるようです(もしかして、始めに言葉ありきといったのはこのことだったのかも?)。
 この歌はとうきょうもんの私の歌ではありませんが、言葉の面白さ、拍子の面白さ、そしてクライマックスに到達する興奮が私を捉えました。クライマックスはね、普通に唐茄子まで歌ったらもう一回始めから唐茄子まで息もつかずに猛スピードで歌って最後に一ちょで二ちょで三ちょでホイとしめなければいけないのです。手鞠歌ですからそこまで続いてつけなければいけないし、スピードに狂わされてもいけない、相当の集中力を要します。
 10月も月は美しく輝くことでしょう。9月のお月見に幼児たちに「お月様 見ましたか?」とたずねたところ「ウン、見た。マックで月見バーガー食べた。美味しかった」と答えました。10月も聞いてみよう!

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