病気と健康

NO2(2002.02.01) ストレスと健康

東名厚木メディカルサテライト
総合健診センターセンター長

稲垣 敬三

 “最近ストレスが多くて、胃が痛くなるよ”とか“頭が痛くなるような難問が積みで、ストレスが溜まるよ”などよく耳にしますが、ストレスが身体や精神に影響し種々の症状や疾患の原因になっていることは、ご承知のことでしょう。
 ストレスとは、本来物体が外圧によって生じる“歪み”のことを意味します。これを身体精神の医学用語として使ったのは、カナダの生理学者であるハンス・セリエ(Hans Selye)で、ストレスとは「心身の負荷となる刺激、出来事、状況などにより個体内部に生じる緊張状態」のことと定義しています。なお外部からの刺激をストレッサーといいますが、通常これを含めてストレスといわれています。ところでセリエは、「ストレスは人生の“スパイス”である」ともいっています。つまり適度の外的ストレッサー(スパイス)によるストレスは、個体に適応あるいは生体防御反応を起こさせ、常に個体の維持刷新をはかることになります。最も分かりやすい例えは、塩でしょう。塩分は人体にとって無くてはならないものですが、過剰となると高血圧を起こし、減少すると細胞の機能が失われてしまいます。
 ではストレスに対し、個体はどのように反応しているのでしょうか。個体には、精神身体を共に至適状態に保とうとする恒常性(ホメオスタシス)維持の機構が働いています。この機構は、神経系、内分泌(ホルモン)系、免疫系の3者が互いに協調統合して機能しています。
 ところで人間は、不快なストレスに対して本能的に回避しようとします(逃避)。また一方ストレスにぶつかって行こうとする場合もあります(過剰適応)。ストレスの原因である問題が解決されればよいのですが、状況が継続し個体の適応限界を越え破綻すると病的状態となります。
 セリエは、ストレスに対するこれらの非特異的適応反応を3期に分けています。第1期(警告反応期):神経反応、ホルモン分泌の亢進し、生体防御を行う。第2期(抵抗期):ストレスに順応し、適応性を獲得した状態。第3期(疲弊期):適応する力を失い、失調状態になったことを意味します。
 今日急速な社会や環境の変化は、生活様式や生活の認識までかえ、以前に比べより多くかつ強度のストレスを私達に強いるようになってきました。平成9年の労働省の調査では、男女共に約60%の人が何らかの不安やストレスを感じていると報告していますが、それはさらに進行悪化していると考えられます。
 ストレス原因は、環境因子まで含めると大気汚染、環境破壊、地球温暖化などや、衣食住のライフスタイルの変化に伴う因子まで膨大なものになりますが、今日問題となるストレスは、物理的、化学的、生物学的ストレスでなく、社会の拡大化や複雑化、技術革新による高度情報化、高速化ならびに高度専門化、社会情勢の不安定化、また人口の少子化と高齢化などにより生ずるストレスのことで、社会や家庭において業務や人間関係に適応出来なくなり、精神的、身体的に異常を来すことです。ストレスにより引き起こされる病態は、神経症、うつ病、心身症、不眠、アルコール依存症、過食症、拒食症、不登校、遅刻、無断欠勤、家庭内暴力などの他、明らかな器質性疾患が無い腹痛、膨満感、めまい、頭痛、頭重感、動悸、息切れ、倦怠感など自律神経失調と言われる不定愁訴(症状)があげられます。このような失調状態が持続し、破綻すると過労死や自殺など死に至ることがあります。
 なおストレスに対する反応の程度は、その強度や持続期間によりますが、ストレスを受ける個体側の複合的要因によりかなりの差異があります。これはストレスの処理法にも、密接に関係してきます。
 ストレスによる健康障害の予防対策は、(1)ストレス要因の軽減、(2)個々の“ストレス耐性”の強化の2点です。ストレス要因の軽減は、まずストレスの“気付き”が一歩となります。本人を含め周囲の人々がストレスによる心身の異常(不適応)に気付き、充分に本人の苦痛を把握し、負荷の軽減や自由度の拡大をはかることが大切です。これには、上司や指導者(先生など)、同僚、友人、また家族のサポートが重要です。第2の“ストレス耐性”の強化は、自分自身による心身の健康管理で、緊張状態に気付き、自らリラックゼイションを行えるようにすることです。
 しかし明かに病的状態を呈する場合は、心身内科や精神科の専門医師あるいは心理カウンセラーにご相談ください。なおストレスだけでなく基礎に器質的病変が存在することがありますので、基本的な身体の検査はかならず行ってください。

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