新刊紹介

『栴檀』を手にする倉田さん

『栴(せんだん)檀』

倉田定弘著

栴檀(せんだん)は双葉より芳し

 厚木市関口に住む元神奈川県技監の倉田定弘さん(70)が、自宅に育つ樹齢40年の栴檀の木に思いを込めてつづった自分史『栴檀』を自費出版した。戦前・戦後の混乱期に過ごした少年時代、旧制厚木中学の頃、県厚木土木事務所や企業庁につとめた地方公務員の時代、そして第二の人生など、懐かしい思い出や失敗談なども収録し、栴檀の木とともに生きてきた悲喜こもごもの人生を綴っている。

B6判364ページ。限定出版・非売品

 倉田さんは厚木市関口、長坂地区の通称「原」と呼ばれる農家の二男として生まれた。子どものころは鮎釣りや水汲み、川木拾い、繭出しなどを体験、小学校時代の悪童たち、恩師の伊藤先生、人捕り遊び、そして旧制厚木中学時代が部活と教練にいそしみ、海洋訓練た護国隊の思い出など、昔を懐かしみながら原稿をまとめた。
 中学を卒業して、県厚木土木事務所に補助職員として入所してからは、夜学に通いながら大学の土木科を卒業、県の上級職試験にも合格した。土木事務所時代は、鶴巻の陣屋で開いた宴会で芸者と添い寝をしたこと、中津川の測量を誤魔化して50年後に露見してしまったこと、相模大橋の橋桁が測量ミスで10センチ低かったことなの失敗談も大いなる違算として書きとめた。

倉田さんの家の栴檀の木

 その後、倉田さんは県企業庁に転任、箱根開発事務所に勤務して水道事業に従事した。次いで、水道局に戻って工務課長、寒川浄水場長、計画調査課長を歴任、技監に就任した。この間、母の死に遭遇、水道管が破裂した事故、工務課と建設課の覇権争い、県会議員と役人との関係、汚職事件、役人のコスト意識の低さ、企業庁長との確執などについても言及、役人の世界を内部から紹介している。
 昨年11月古希を迎えた。それを記念して「戦前、戦後の混乱期に青春を過ごしてきたので、今の人たちが経験したことのない小さい時の思い出や学生時代、サラリーマン時代の思い出を記録として残しておきたかった」と出版の動機を話している。
 倉田さんの生家には栴檀の老木が植えてあった。毎年春が近づくと、その栴檀の木は小さな小判のような輝きを持った淡緑色の葉を枝一面に茂らせ、初夏には葉の上面に髪簪(かみかんざし)のような淡紫色の花を咲かせていたという。結婚した時に住んだ旭町の住宅にも栴檀の木が植えてあり、昭和47年現在地に転居してきた時も、わざわざ旭町の住宅から栴檀の木を移植したほどで、幼いころから栴檀の木には特別な思い入れがあった。。
 「あれから40年近くになるが、自宅の窓越しに栴檀の木を見つめていると、その木を通して人生の思い出が走馬燈のように甦ってくる。これからも庭先で毎日、私たちの生活を、そして人生の変遷をあたたかく見守ってくれると思うと、感慨も一入だ」という。倉田さんはこの思い出多い栴檀の木に、70年の人生を投影させた。
 「栴檀と生を競って古希迎え」。

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