病気と健康

NO6(2002.06.01) 脂肪(脂質)と健康

東名厚木メディカルサテライト
総合健診センターセンター長

稲垣 敬三

 生活習慣病としての高脂血症は、それ自体特別な自覚症状は無く、病気として認識されるものではありません。
 しかし、高脂血症が続くと、コレステロールが血管に沈着し、心臓の冠動脈や脳動脈に粥状(じゅくじょう)動脈硬化を起こし、虚血性心疾患や重篤な心筋梗塞・脳梗塞などを発生する危険因子となります。
 定期健診や人間ドックでは、血清の総コレステロール値が220mg/dl 以上、中性脂肪値(トリグリセライド)150mg/dl 以上の場合を高脂血症と呼んでいます。これは、疫学的に示唆された値で、この値を越えると虚血性心疾患の発生頻度が有意に高くなっています。
 近年欧米化した高カロリー食生活の反省から過食傾向が改善されつつありますが、「国民栄養調査」では脂肪と塩分の取りすぎであることが認められます。
 それでは、脂肪(脂質)は我々の体にどのような役割を果たしているのでしょうか。
 血液中には、コレステロール、トリグリセライド、リン脂質と遊離脂肪酸の4種類の脂質があります。コレステロールは、体をつくる細胞の膜や血管の強化維持、ホルモンや胆汁酸の基本材料になっています。トリグリセライド(中性脂肪)は、グリセロール(グリセリン)に脂肪酸が結合したもので、過剰の糖質により合成され、エネルギーの貯蓄型と考えられます。エネルギー過剰状態では、皮下脂肪として蓄えられます。リン脂質は、水に溶ける性質(親水性物質)があり、水に溶けないコレステロールやトリグリセライドを包む膜を構成します。この膜は、リン脂質と脂質を体の細胞に送り届ける役割をもつアポ蛋白の複合体でリポ蛋白と呼ばれ球状構造とり、血液中に存在します。遊離脂肪酸は、エネルギーとして利用されます。
 ところで、コレステロールや中性脂肪は、体外から直接吸収利用されるというより、体内(肝臓)で合成されます。コレステロールの合成に関連するのが、脂肪の取り方です。飽和脂肪酸を多くとるとコレステロールが増加し、不飽和脂肪酸の摂取が増えるとコレステロールが低下します。
 一方、中性脂肪は、先に述べたようにグリセオールと脂肪酸によって合成されます。糖質の摂取が過多になると脂肪酸合成が進み、皮下脂肪が増えてきます。これら合成された脂質は、リン脂質、アポ蛋白とともに内因性リポ蛋白を形成します。各脂質に結合するアポ蛋白に相違があり、中性脂肪では、カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)として比重の低いアポ蛋白により末梢組織に運ばれます。
 コレステロールは、LDL(低比重リポ蛋白)・HDL(高比重リポ蛋白)と結合します。LDLコレステロールは末梢組織に運ばれ利用されますが、過剰になると”悪玉コレステロール”と呼ばれ、血管壁に沈着粥状硬化を引き起こします。
 一方、HDLは、末梢に沈着したコレステロールを善玉コレステロールとして取りだし、肝臓に戻し処理する働きを持っています。なお、脂肪成分が長期にわたって不足すると、脳卒中や高血圧を起こすこと危険性が増すことをを付け加えておきます。
 脂肪は体にとって必須成分ですが、過不足なくバランスのとれた状態を保つことが大切です。

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