病気と健康

NO3(2002.03.01) 酒は、薬か、有害か

東名厚木メディカルサテライト
総合健診センターセンター長

稲垣 敬三

 昔から“酒は、百薬の長”といわれ、いかなる薬より効果があるとの考えがあります。たしかに適量の飲酒で冠状動脈疾患の発症が低いなど健康にマイナスではないことは、疫学的調査でもなど明かになっています。これは、酒の血管拡張作用、抗酸化作用、抗血小板凝集作用などよると推測されています。一方反対語で“酒は、百害の長”ということもあります。
 酒の歴史は、文明の歴史ともいえるほど古くからから認められ、飲酒の事実が多くの遺跡から発掘されています。ギリシャ神話では、ディオニソスが豊穰と酒の神とされ、ぶどうの栽培とワイン造りが行われていたことが解ります。わが国でも、古事記に酒造りの記述があり、宗教的儀式や祝祭事には酒が用いられていたようです。
 人は酒(アルコール)を飲むと、精神神経的な抑制がとれ、気持ちが高揚し活発になるため、楽しくなり対人関係がスムーズになったり、ストレス解消なったりします。また食欲が増し、食事が美味しくなったりします。ただしこれはビール1ー2本程度で“ほろ酔い程度”の適量の時期であって、血中濃度が増すにしたがって身体に悪影響が出現してきます。いわゆる《飲みすぎ》で、ビール3本前後になると”酩酊期”に入り、足元がふらついたりします。さらに5本以上になると、足元がおぼつかなくなり、呂律が回らなく、精神の錯乱や意識喪失をおこすような“泥酔期”になります。それ以上になると“昏睡期”になり、死亡する危険性があります。また飲みすぎは、頭痛、吐き気、動悸、めまいなど急性中毒や二日酔いを起こすことになります。
 ではアルコールは、体内でどのように処理(代謝)されるのでしょうか。一部汗や尿、呼気で直接排出される以外、90%は肝臓で処理されます。まずアセトアルデヒドに分解され、さらに酢酸になり、最終的に水と炭酸ガスに分解されます。この中間代謝産物のアセトアルデヒドが、頭痛、吐き気など急性中毒の原因になります。特に日本人を含む東洋人では、遺伝子的にこのアセトアルデヒドを分解する脱水素酵素(ALDH)の欠損が50%に見られ、中毒症状を起こす危険性が高いことに注意しなければなりません。
 ところで肝臓のアルコールの処理能力は、酒に弱い人で1時間に5g、強い人で10g、平均8g程度と考えられます。ビール1本(清酒1合、ウィスキーダブル1杯)が、アルコール22gに相当にしますので、通常一本の処理に3時間かかることになります。したがって1日の処理能力は、160gぐらい(清酒7合)が限度と考えられます。肝臓の処理能力を超えて毎日飲み続けると、肝臓に障害が生じ、脂肪肝、アルコール性肝炎と進み、最後には回復不能の肝硬変となり、肝不全や食道動脈瘤で死亡することになります。なお酒関連障害として、アルコール依存症(いわゆるアル中)の問題がありますが、紙面の関係で別の機会に譲ることとします。
 飲酒は、人の生活のなかで生まれた習慣であり、文化とも言えます。したがって自己の体質や体調(精神状態を含む)を考え、適量を上手に嗜むことが大切です。

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