「感動、感激、感謝をキーワードにまちづくりを」と語る山口巌雄厚木市長(厚木市役所市長室で)

2002.1.1新春インタビュー

 山口巖雄厚木市長に聞く

地方分権における自治体像

 あけましておめでとうございます。2000年4月1日に地方分権一括法が施行されてから本年4月で3年目を迎えます。これまでの思考錯誤的な段階から自立に向けた将来像を示す時期に来ているといえるでしょう。デフレ経済の長期化で市民の経済活動が停滞している中で、自治体の財政運営は大変厳しいものがあります。一方、高齢化、少子化、IT化、グローバル化といった新しいニーズへの対応も待ったなしの状況にあります。新年を迎え、山口巖雄市長に今年の抱負についてお話を伺いました。(聞き手は山本陽輝編集長)

特例市への移行で個性的なまちづくりを

 特例市は厚木市のステイタス ■厚木市は本年4月1日から「特例市」に移行します。まず最初に特例市への取り組みからお話しをお聞かせ下さい。
 
山口市長 地方分権一括法の施行以来、厚木市がさらにプラスアルファという特例市の指定を受けることは、市民生活や経済活動にプラスになることはいうまでもありません。 
 特に市民に身近な環境行政や都市計画行政など、県より16法律20項目の権限の移譲を受けますので、現在にもまして地域の実情に合った個性的で活力のあるアクティブなまちづくりを推進できるものと考えております。
 また、厚木市は「業務核都市」の指定も受けており、この二つの指定を受けた自治体は特例市の中でも所沢市と厚木市だけだと思います。そういう意味では業務核都市と同様、厚木市の誇り、ステイタスになるのではないかと思います。
 しかも今回、指定を受けた自治体の中で地方交付税の不交付団体は厚木市だけです。特例市に移行しますと諸経費で4800万円ぐらいかかります。厚木市は自費で負担するわけですが、特例市制度が始まった2年前には、1億8000万円といわれていましたので、この費用対効果という面を考えますと、経済的効果が7900万円ぐらい見込めますので、諸経費を差し引きますと3000万円ほどのプラスになります。行政経営学的にも大きなメリットがあると考えています。
 
まちづくり条例制定へ ■特例市への移行は、厚木らしさを目指したまちづくりを進めていく大きなチャンスになるものと思いますが、現在、準備を進めている「まちづくり条例」はどのようなものでしょうか。
 
山口市長 現在、平成15年度を目標に、自分たちのまちは自分たちでつくる、自分たちの法律は自分たちで定めるという気概を持ち、市民が主役になって条例を定めていただくよう準備をしているところです。
 特例市への移行による環境関係の事務のほか、県から屋外広告物条例の権限も移譲されますので、そうした権限移譲を背景としながら、快適で住み良い安全なまちをどのように作っていくかが課題となります。たとえばポイ捨てを禁止するとか、緑をどう保全するとか、廃棄物の不法投棄や街中の落書きを防ぐにはどうしたらよいかとかさまざまな課題があります。
 その第一歩として昨年秋、市内の8地区で「まちづくり条例について市民の皆さんの意見を聴く会」を開き、公募や公民館の推薦によって選ばれた45人の市民の皆様にご検討いただいているところです。県条例や国の上位法との整合性も考えながら、新年早々には素案をまとめ、本年9月の定例議会に上程していきたいと考えております。
 大事なことは素案づくりのプロセスの中で市民と行政の協働化が強化され、市民の皆様に自覚をもっていただけるもの、市民が作った約束事だから市民みんなで守っていこうという気持の入った条例にしていきたいと考えております。
 
ITのまちづくりは人づくり ■昨年、市長は「ITのまち、ハイウエーのまち、ハーモニカのまち」の3つを提唱されました。2年目に入る今年はどのように取り組んでいかれますか。
 
山口市長 昨年発足いたしました「IT戦略会議」は、いままでの審議会の構成とは形を変え、ITに直接たずさわる研究者や専門家、学者の皆さんに論議をお願いして中間報告を出していただきました。今年はある程度予算づけをしていこうと考えております。そういう意味では実施段階に入ってきたと思います。
 まず、市民がITに親しみ学べるという人づくりから進めていきたい。たとえば小中学校のIT教室に先生方だけではなく専門的な指導員を派遣して、より高度な技術を学べる教育に取り組もうと考えております。そして子どもたちが学校で覚えたことを、今度は家庭に持ち帰ってお母さんに教えていただくというように、キーボードをたたきながら親子の会話や絆が深まるという「トライアングル」的な効果も同時に期待をいたしております。
 また、昨年度から始めたIT講習会を継続して、市民の皆さんがITの基礎や技術を、各地区で身近に学べるような人づくりを進めていきたいと考えております。(2面に続く)
 
電子入札について検討 ■自治体の電子入札についてはどう取り組んで行かれますか。
 
山口市長 現在、調査研究を始めておりますが、電子入札制度を導入することは、競争性や透明性の向上、受注機会の拡大、建設コストの縮減、事務の簡素合理化などが図られる反面、電子入札システムそのものの乱立による業者の混乱、ダンピング受注による品質や安全性、技術力の確保などいくつかの検討すべき問題点がありますので、弊害をもたらすようなことは避けなければなりません。市としては愛市購買と市内業者の育成にも力を注ぐ必要がありますので、メリット、デメリットを十分に検討しながら取り組んでまいりたいと考えています。
 
第2東名は市長自ら積極的に要望 ■国の構造改革による高速道路網の整備見直しで、自治体を取り巻く環境が変化してきています。ハイウエーのまちづくりを進める上で危惧感がありますが、これにはどう対応していかれますか。
 
山口市長 高規格幹線道路網の整備体系は2つに分かれています。1つは国土開発幹線自動車道、もう1つは一般国道の自動車専用道路に分類されています。この整備体系以外に地域高規格道路があり、厚木市に計画されている3路線のうち、第2東名自動車道は国土開発幹線自動車道に位置づけられ、現在事業者説明会に向けた取り組みを行っています。さがみ縦貫道路は一般国道の自動車専用道路に位置づけられ、用地買収と一部工事に着手しております。さらに、厚木秦野道路については平成13年度に事業区間の測量調査が予定されているところです。
 従って、この3路線はハイウエーのまちづくりを進める上で、一体的に整備されることが重要だと思っております。その中で第2東名は日本道路公団の所管ですから、ご指摘のような心配があります。
 私は20世紀は鉄道の世紀、21世紀はハイウエーの世紀だという持論を持っております。その根幹をなすのがインターチェンジのある厚木市ということになりますので、交通渋滞の解消にはどうしても高規格道路の整備が必要だと考えております。地元の市長として、どういう形であれば受け入れていただけるのか、まだまだ不透明な部分がありますが、国に対しては私自身が精力的に動いて、懸念を抱いている方に明るい見通しを持っていただけるようなお一層の努力をしてまいりたいと考えております。

 全国で初「ハーモニカのまちづくり」 ■本年夏にハーモニカのアジア大会が厚木で開かれます。名実ともに「ハーモニカのまち厚木」がスタートするわけですが、これについてはどう取り組まれますか。
 
山口市長 「ハーモニカのまち」づくりというのは、全国でも初めての取り組みです。市民の皆さんが長年にわたって培っていただいた厚木のハーモニカは世界のトップレベルで、愛好者も子どもからお年寄りまで広範囲に及んでいます。これを内外にアピールすることは、厚木のイメージアップにつながります。これからは文化を通して人々が学び絆をつくる時代です。その一つがハーモニカで、ハーモニカには厚木の文化の牽引車になっていただきたいという思いが私の根底に強くあります。
 第4回アジア太平洋ハーモニカ大会は、市と全日本ハーモニカ連盟との共催になりますが、主体はあくまでも連盟と市民の皆さんです。行政は皆さんを支える黒子に徹していくという「自治体から市民への分権」というやり方で、ぜひアジア大会を成功させたいと思っています。

インタビューに答える山口市長

インタビューする山本編集長

 文化振興財団について ■文化会館の運営が財団法人化されますが……。
 
山口市長 文化会館は管理と文化振興という2つの役割を担っていますが、財団になると行政が手を出しにくい課題を財団が担うということになり、文化活動の底辺が広がっていきます。これまで文化行政は市の手中にありましたが、これからはできるだけ市民の手中に移していきたい。これも自治体から市民への分権の1つです。体育協会もそうですが、福祉は社会福祉協議会がありますし、将来的には環境も財団法人化していくことを考えてもいいのではないかと思っています。 
 市民が生活していく4本柱、文化・体育・福祉・環境が市民の手にゆだねられ、理事や評議員による決定が行われますと、地方分権に基づく権限移譲がますます進んでまいります。たとえば特例市によって生まれて来る検査などの業務も、財団にゆだねることができます。

「アクティブタウンあつぎ」の第1歩を踏み出す年

 市立病院は政策医療重視で ■昨年厚木市は県立病院の移譲にあたって「直営方式」を選択されました。年間10億円を超える財政負担や病院経営、移行時の設備や機器の入れ換え、職員の就労、業務の民間委託など依然として解決すべき問題を抱えていますが、市立病院の経営にはどう取り組んでいかれますか。
 
山口市長 厚木市が県から移譲を受けるという前提には、市立病院としての公的役割を果たすという重要な意味がありました。民間では提供されにくい医療の分野がたくさんあります。いわゆる不採算部門といわれている分野ですが、たとえば感染症・エイズ医療、24時間救急医療、産科、小児科など民間では提供しにくい分野を政策医療として市が補うというやり方です。
 これは政策医療ですから赤字という考え方ではありません。赤字というのは黒字を出すために営んでいる事業が失敗したときに赤字になるという考え方です。厚木市は民間がやらない不採算の分野を政策医療として取り組み、市民の皆さんが安心して暮らせるよう重要な施策を行うわけですから、税金で補うのはやむを得ないことだ思います。
 ですから政策医療を赤字とは思わないでいただきたい。だからといって経営感覚ゼロでいくわけではありません。私は経営努力によって2〜3割程度は経費を圧縮できるものと考えております。
 仮に直営ではなく委託になりますと、今のお医者さんも看護婦さんも全部変わってしまいますし、患者さんにも一度退院していただかなくてはなりません。これをやると、スタートまでに最低2〜3ヶ月かかり、医療の空白期間が生じます。しかも医療のレベルが現在よりも低くなってしまっては大変なことになりますので、これはぜひとも避けなければなりません。
 それと医師会の皆さんとも連携を密にしていかなければなりません。私どもは二次医療を担うわけですから、一次医療を担う開業医の皆さん、三次医療を担う専門病院というように、そういうパターンがしっかりできてこないと患者さんは安心できません。
 幸い、医師会はもとより大学病院からのご協力や県へも大型医療機器更新の要請をお願いしまして、大変いい形で推移してきています。従って開院時はスリムで身軽なスタートができるものと考えております。
 
アウトソーシングについて ■地方分権の中で公的業務を民間が補うといういわゆる「アウトソーシング」を積極的に導入していこうという考え方が出てきましたが、これについてはどうお考えですか。
 
山口市長 アウトソーシングにつきましては、単に経費の節減という視点だけでなく、むしろ多様化した市民ニーズにお応えするという質の高いサービスを提供するために、民間の知識や技術を活用していくべきだと考えております。しかし、具体的な手法についてはNPOやボランティア、行政協力団体などの公益活動への支援とあわせて検討してまいりたいと考えております。
 
積極的に行政の説明責任に取り組む ■地方分権は行政が市民に対してアカウンタビリティー(説明責任)を果たすことでもあります。行政の透明性を高めるとともに、職員のコスト意識を持たせるにはどう対応していかれますか。
 
山口市長 市民が主役の市政実現を確かなものにするためには、財政状況を知りたい市民の皆さんに情報を提供するという「受け身」の姿勢ではなく、全ての市民に情報をわかりやすく提供するという「積極的な立場」を取ることが重要であると考えております。平成12年度には「バランスシート」を作成し、13年度には「行政コスト計算書」を作成いたしました。
 この行政コスト計算書は、行政サービスの提供の状況を説明するための新しい手法として作成したもので、厚木市の行政活動を分かりやすく説明するという観点や、行財政改革を推進する中で、行政の効率性や合理化などの状況をより分かりやすく市民に説明していこうという観点からも、有効な資料になると考えています。
 今後も広報紙やインターネット関連サイトの充実とともに、研修講座への参加などにより、市民の皆様のご意見やご批判をいただきながら、財政状況などの情報をわかりやすく提供して、行政の説明責任を果たすとともに開かれた市政の実現に努力してまいります。
 
21世紀を展望した産業振興計画を作成 ■長期化するデフレ経済の影響で、厚木市の産業経済も深刻な影響を受けております。自立した分権都市を維持するために、今後厚木市はどのような産業経済政策を打ち出していかれますか。
 
山口市長 厚木は県央地区では先進的な商工業都市を形成してきました。今の厚木市の商業人口や就労人口を見ますと、依然として大変な活力があります。市場経済ですから競争で淘汰されるという面もありますが、企業によっては研究所などがどんどん伸びてきています。カルロス・ゴーンさんが日産で最も魅力があるのは厚木のテクニカルセンターだということで日産に乗り込んできたのは現実のお話しです。ですから、潜在的にもかなりのポテンシャリティを持っています。 
 地域産業については本厚木駅周辺地域を、厚木市の商業拠点として位置づけ、平成11年度に「中心市街地活性化基本計画」を策定しました。また、現在、商工会議所が中心となって商業者や市民の皆様のご意見を聞きながら、実施主体となりますタウンマネジメント機構(TMO)を平成14年度に設立するため合意形成につとめております。
 さらには、21世紀を展望した産業振興計画を、平成14年3月末までに作成する予定でおりますので、厚木市の未来が大きく展望できる産業振興ビジョンをお示しできるものと考えております。
 
感動・感激・感謝がキーワード ■平成14年度はどういう年になるでしょうか。
 
山口市長 私は21世紀における厚木市の位置づけを確固たるものにするため、「感動、感激、感謝」をキーワードとして、ITやハイウエー、ハーモニカのまちづくりを推進してまいりますが、今年は新たな躍進に向けた活動が涌き出てくる「アクティブタウンあつぎ」形成に向けての第一歩を踏み出す年になるだろうと思います。
 ■今日はどうもありがとうございました。