風見鶏

1983(昭和58年).1.1〜1983.12.15

  都市の発展段階説(1983・1・1)

 足立原市長が「教育文化都市」の建設を掲げて、市政の表舞台に躍り出たのは昭和54年の2月であった。この時期は厚木市にとって極めて重要な歴史の一大転換期である。アメリカの経済学者W・ロストウ流にいうならば「離陸(テイク・オフ)」から「成熟への前進」にいたる過渡期である。石井市政はそれ以前の「離陸のための先行条件期」から「離陸」までのプロセスを担った▼ロストウは工業化と生産力水準の発展を基準にして、5つの発展段階で近代化を説明している。これを自治体レベルに置き換えるのはかなり乱暴だと思うが、ロストウの経済成長発展段階説で地域や都市の発展を説明すると、かなりシンボリックなものが見えてくる▼彼のいう離陸のための先行条件期から離陸への時期というのは、投資率が人口増加率を越え始め、新しいタイプの企業家が生まれ、市場が開けて、新しい生産関係が登場する時期である。この時の経済の加速度は、一般道路を乗用車が時速60キロメートルで走行するのに似ている。これは石井市政が農業都市から自立した工業都市への道を歩むため、工場誘致条例を制定して産業基盤の整備をはかったことに象徴される▼次の離陸から成熟への前進期というのは、工業が主導部門となり、投資率が国民所得の5〜10%ないし、それ以上になり、新しい経済、政治、社会の制度的枠組みが出来る社会である。この時期は投資が投資を呼び、新しい都市像をどのように定めるかという時期で、足立原市長は「教育文化都市」なる概念を将来の都市像に定めた▼今や「離陸」を終えた厚木市は、高速道路へと乗り入れ、「成熟への前進」から「高度大衆消費時代」への道を、時速80キロから100キロのスピードで走り始めた。成長の頂点は昭和65年ごろになるだろう。足立原市長はこの重要な時期に市政を担当していることになるのだ▼しかも、昭和65年以降がバラ色の厚木になるか否かは、この10年間の操縦いかんにかかっている。安全運転をしながら順調にギアチェンジを行なうことが出きるか、スピード違反で失速するか、速度が早ければ早いほどまたリスクも大きい。それをいかにコントロールするかが足立原市政の課題といえよう。

  対決から連合へ(1983・2・1)

 厚木市長選挙は統一地方選の前しょう戦を飾るものとして、毎回、注目を集めているが、今回は民社、公明、新自由クラブ、社民連、社会の5党相乗りで、足立原市長の無競争再選が確実視されている▼前回、遅ればせながら、支持を打ち出した社会党までが推薦に踏み切ったということは、他に対立候補が出ないという状況判断もあるが、中道四党と同じく足立原市長の市政執行に対して、積極的な評価を打ち出したものと受け止められる▼足立原市長は自民党にも推薦の依頼を申し入れたが、残念ながらその了解は得られていない。もっとも保守系市議のほとんどが支持を打ち出しているため、実質的な保守から革新の社会党までを含めた「大連合」だと指摘することも出きる▼近年、自治体の首長選挙は「対決」から「連合」の図式が増えてきた。県知事選は7党相乗りの最たる例だし、他の自治体でも保守・中道、そして一部革新までを含めた相乗り現象が見られる。政党レベルでは政策やイデオロギーを異にしても、首長選になるとこぞって同一候補を推す▼これは「地方政治にイデオロギーはいらない」という一つのあらわれだろうが、どこの党とも政策協定を結ぶということなると、候補者はそれにしばられるし、有権者にとっては政党間の争点が分かりにくくなる。そして結果は無風で、選挙の執行がないのだ。選挙は何のためにあるのだろうか。今一度連合について考えてみる必要がありはしまいか。

  怪文書(1983・3・1)

 選挙が近づくと、巷に決まって怪文書の類が出回ってくる。もちろん、怪文書だから、発行所などの所在は不明で、誰が書いたのかも分からない。従ってそういう文書をわざわざを買って読む者もいないだろう。だから発行する側には必ずといっていいほど、何らかの意図があり、カネが裏で動くことが多い。それでも後から振り返ると、こうした暴露に部分的な真実が潜んでいることも少なくないから驚く▼紙爆弾が飛び交うのは相手候補を陥れたり、不利にさせるのが目的で、中央の保守政界では、反主流が時の政権派閥を攻める道具に使うというのが常道のようだ。だが、保守にそんな内輪の泥仕合を演ずるゆとりはない。同じ泥舟に乗っている仲間なのだから▼とは言っても、選挙は革新も保守も、はたまた同じ党に属していても敵同士になる。同じ党だからといって決して油断は出来ないし、怪文書は自分の陣営以外、どこから出ても決しておかしくない▼県議選の告示までまだ1カ月もあるという2月12日、厚木市の荻野界隈に怪文書が出現した。現職県議を中傷したもので、例によって例のごとく地位利用による汚職劇を暴露したものだ。驚いたことには「選挙に落選させよう」ということわりが挿入されていて、明らかに選挙妨害を意図したものだろう。この怪文書自体がバカげたものか、真実なのかは分からない。ただ1つ言えることは怪文書が1人歩きするという奇々怪々さである。

  県議選(1983・4・1)

 4月10日投票で県議選が告示された。当初、社会党の出馬が予定されたが、告示ギリギリになって同党が出馬を断念したため、県議選は自民2、新自由ク系無所属1、共産1の4人であらそわれることになった▼今回の県議選は、これまで自民党の現職が2議席を独占してきたポストに穴を開けるか否かが最大の焦点になっている。4人が立候補したものの、実質的には保守同士3人の激戦だ。選挙の闘い方によっては自民2議席の一角を崩す可能性が大きいだけに、最後まで予断を許さない▼厚木の政治風土は、伝統的に保守王国といわれてきた。しかし、昭和50年ごろから住宅開発に伴って新しい市民が急激に増えつづけている。現在、有権者10万4千人のうち6割は、この10年間のうちに厚木市移り住んできた市民といってもさしつかえないだろう。それだけに、市民の政治意識はこれまでと違った性格を帯びている▼厚木市は依然として革新勢力の力は弱いものの、54年の市長選では、中道勢力をがリーダーシップを取って保革陣営と無党派浮動層を巻き込むという劇的な選挙戦が展開された。この図式は必ずしも県議選に当てはまらないが、保守票を3人で食い合うだけに、勝敗を占うポイントは公明、民社の中道票と社会の支持票、そして浮動票の行方如何にかかっている。従って投票率が高ければ新人有利、低ければ現職有利なる公算が強い▼有権者が自民の独占にイエスの答えを出すかノーの答えを出すか興味深い。

  県議選の結果(1983・5・1)

 統一地方選挙が終わった。厚木市の県議選は保革四人による熾烈な闘いに持ち込まれ、近来にない選挙戦が繰り広げられた。結果は自民の小沢金男氏が連続4回のトップ当選、新人で無所属の堀江則之氏も自民現職の向島孝秋氏を押さえて初当選した▼今回の県議選は、これまで自民党の現職が二議席独占してきたポストを、阻止するか否かが最大の焦点となった。結果は有権者が独占にノーの答えを出したわけで、これが持つ意味は大きい▼厚木市の政治風土は伝統的に保守王国といわれてきた。しかし、近年、都市化にともなって新しい市民がどんどん増えつづけており、市民の政治意識は単に保守、革新という図式では割り切れない性格を帯びてきている。特に四年前の市長選以降、政治の流れは大きく変わりつつあり、堀江氏の勝利はこうした政治風土の変化に、自民の2議席独占阻止をストレートに結びつけた点にある▼しかしながら、今回の県議選では堀江派と向島派が、買収による選挙違反で逮捕者を出すという不始末を引き起こした。特に堀江派の大量違反は県議選史上まれに見るもので、大きな汚点を残したといえる▼堀江氏はクリーン選挙をスローガンに出馬しただけに、逮捕された人たちのこうした行為は、堀江氏の信頼を落とすと同時に、有権者をあざむくものだろう。この責任は厳しく追求されなければならない。信頼の回復は今後4年間の堀江氏の政治活動いかんにかかっている。

  選挙を10倍楽しくやる方法(1983・6・1)

 「プロ野球を10倍楽しく見る方法」というのがあるのなら、「選挙を10倍楽しくやる方法」といいうのがあってもいい。少数激戦が予想される厚木市議選を面白くすために、誰でも選挙を楽しくする方法を考えてみた▼第1は供託金だけで選挙をやること。金がかからないから誰でも選挙に出れる。場合によっては選挙運動などやらなくてもいい。そして出ること自体を決して深刻に考えないことだ。第2は誰かが勝手に候補者を擁立して選挙をやるという方法。もちろん、この場合は費用は勝手に出す人が負担すること▼第3は選挙に出るには勇気がいるから、10人くらいまとまってみんな出ること。この場合、運動もみんなで一緒にやるとより効果的だ。第4は選挙を遊びながらやること。既成のやり方にとらわれることなく、自由気ままに、好きなようにやるのが賢明といえる▼第5は公約は絶対掲げないことだ。なぜなら公約を掲げてもそのすべてがお題目で、誰もそんなことを本気にしていないからである。第6は徹底してブラックジョークでいくこと。そして冗談を本気にさせること。まだまだ他にもあるかも知れない。要は選挙を面白くすることに徹すればよいのである▼多少ふざけたところもあるが、政治や選挙に対するシラケ派や無関心層が増えているのは、選挙自体が面白くないということもあるだろう。既成の政党や組織、地元の顔役的な発想では選挙は面白くないし、無関心層をひきつけることは出来ない。選挙を楽しくやる方法を考えよう。

  厚木市議選(1983・7・1)

 厚木市議選が14日告示される。今回は現職25名に新人8名を加えて、33名の立候補が予想され、かつてない少数激戦となりそうだ。新人には未知数に期待が寄せられるが、実際にはどうなのかという疑問もある。一方、現職組はこれまでの議員活動の是非が問われるだろう。どちらもプラス、マイナスの要素がある。さらには候補者の人格や識見、人間性までが評価の対象になってくる。日頃の行いが悪い人は目も当てられない。議員諸公もこの時ばかりは低姿勢だ▼それにしてもこう立候補予定者が少ないのはどうしてだろう。金がかかるということもあるが、昔は地縁、血縁がものをいう選挙、地域の顔役が選挙に出るというパターンが多かった。次いで政党や組織をバックに出馬するのがこれに続くが、最近になって既成のやり方ではない市民の間から、出馬する傾向が全国各地で見られる▼しかし、厚木はまだまだ地域代表や既成の政党、組織から立候補する人が多い。逆に言えば、こうした形をとらないと立候補出来ないというのが実情のようだ。そして次に考えられるのが、議員に魅力がなくなってきているという点にある▼議員の能力や資質にも問題があろうが、今や議会そのものが形式化されて面白くない。市民と議会の距離が遠くなっているのである。選挙も議会も面白くない。これでは立候補者が少なくなって当然だし、投票率も上がらない。有権者の大いなる奮起を望みたい。

 議員の心得10カ条(1983・8・1)

 改選により厚木市会の勢力分野が決まった。当選した30人にはまず心より、おめでとうと言いたい。まだ喜びのさめやらぬいま、苦言を呈するのはしのびないが、これからの議会活動に期待を込めて「議員の心得十箇条」をひもといてみた▼その1。大したことでもないのに、大げさにやる田舎芝居の千両役者にならないこと。その2。選挙後2年くらいはスター気取り。残りの2年は票こじき。そんな議員にならないこと。その3。酒を飲んで役所に来て議員風を吹かせないこと。こうした議員は通常、名前だけの議員であり、員数的な存在である場合が多い▼その4。理事者へ向けて弱いものいじめや空いばりをしないこと。逆に馬鹿にされている場合が多いから。その5。理事者となれあい執行部追随に走らないこと。また逆に何でも反対のための反対をしたり、理事者のあげ足取りをしないこと。その6。議員は自分でやったんだと住民にいばり散らさないこと。そんな議員に限って力がない▼
その7。利権あさりと遊びにうつつを抜かさないこと。そして自分の利益や地位・名誉、売名行為の1つとして議員の肩書を利用しないこと▼その8。本会議で発言しなかったり、4年間に1度も一般質問をやらない議員にはならないこと。その9。議会内の役職人事で醜い争いをしないこと。その10。予算書も読めない議員にはならないこと▼やさしいようで難しいのがこの10カ条。これからの議員諸公の行動を見守りたい。

  議員の研修旅行(1983・10・1)

 今年も議員の研修旅行が予定されている。ところが視察・研修とは名ばかり。一歩、厚木を離れると「物見遊山」的な気分になる議員諸公もいるようだ。“旅の恥はかき捨て”と言った安易感があるのかも知れないが、公費で行くからにはそれなりに自重し、責任感を持って欲しい▼研修旅行には大体が「まちづくりを視察するため」という大義名分がついている。だが、中身の方は果してどうか。視察地の選定にしても議員の見識を高める目的で、各地の福祉や教育施設、環境施設を訪問、自治体運営に役立てるという積極的なものから、湯があり、景色がよくて食べ物がうまいところを目当てに、適当な視察をくっつけるというお粗末な例まである▼数年前、北関東地方のある町議会では、議員の研修旅行にホステスを同行させ「公費を使って女連れの観光旅行はケシカラン」と、町民のひんしゅくを買ったことがある。これはひどい例だが、議員の研修旅行は“大名旅行”だとして、不快感を表す市民は意外と多い▼こうしたイメージをなくすために、自治体関係者の研修、視察旅行については1つの義務づけをしたらどうかと思う。民間企業でも一般公務員でも、出張に対しては報告なりリポート提出などの答えを出すのが義務づけられている。ところが、特別職にはそれがない。首長や議員はもっともらしい名目をつけ、公費で旅行をするのだから、住民への報告を義務けるべきだろう

  相模里神楽(1983・11・1)

 ピーヒャラトン、ピーヒャラトン。笛と太鼓の音が静まり返った体育館にこだまする。舞に興じる子、無心に太鼓を打ち鳴らす子など、その表情はさまざま。これは厚木市酒井新宿子ども会による「相模里神楽」の練習風景だ▼「スポーツばかりでなく、何か違った活動を」と始めてから、今年で10年になる。指導しているのは「里神楽垣沢社中」の家元・垣沢常蔵さんとその保存会の面々。はじめは「難しすぎるのでは」との声もあったが、今では子ども会の中心的活動としてすっかり根を下ろしている。そればかりか、子どもたちは厚木の民俗芸能に誇りを持っているようでもある▼稽古には4年生から6年生までが参加する。笛や太鼓、舞の振り方など、常蔵さんの指導で子どもたちはメキメキと腕をあげた。毎年3月になると6年生が進級するため、3年生が順送りに入ってくるという。2月に文化会館で開かれる厚木市の「子ども文化発表会」には、地元の相川から特選として出演する。これまでにも市の成人式や県の優良子ども会表彰式のアトラクションに引っ張り出された▼常蔵さんは子どもたちの熱心さにいつも心を打たれるという。疑問にぶつかると必ず質問が飛んでくる。今では「打てば響く」という間柄だ。その常蔵さんが、今年の厚木市民文化彰に選ばれた。相模里神楽の伝承と保存一筋、70年の努力が報われたものだろう。受賞を一番喜んでいるのは子どもたちに違いない。常蔵さんに心からの拍手を送りたい。

  田中判決解散(83・12・1)

 田中判決解散による師走選挙が3日公示、18日投票で行なわれる。神奈川5区における立候補予定者は亀井善之(自民)、富塚三夫(社会)、河村勝(民社)、岡村共栄(共産)、河野洋平(新自ク)の5氏で、定数3を争う県内でも指折りの激戦区▼特に今回は平林氏の後継者として出馬する社会党の富塚氏が、台風の目となりそうだ。自民の亀井氏は前回同様トップ当選といきたいところだが、参院選での自民票の不振と総裁派閥として政治倫理批判をまともに受けるだけに不安定要素がある▼富塚氏は大物新人で知名度も抜群とはいえ、落下傘候補者としての弱点がある。平林票をどこまで受け継ぐことが出来るか、民社の河村氏とは国鉄の労使対決で、激しい火花を散らしそうだ。前回苦杯をなめた河村氏は今回は背水の陣で臨む。組織票の絶対数が不足している上に、68歳という高齢が気になるところだが、参院選での公民協力の成功をどこまで生かせるか▼新自由クラブの河野氏は党の顔でもあり、今年のベストドレッサーに選ばれるなどセンスと知名度は抜群。しかし、前回は亀井氏にトップの座を明け渡すなど保守票の河野離れも、不安材料がないわけでもない。政治倫理を旗印に参院選での退潮ムードをどう克服するかが見もの。共産の岡村氏は金権腐敗を追求する絶好のチャンスと上昇ムードだが、集票能力は他候補に比べて半分以下と弱く、当選への道のりは険しそうだ

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